手倉森コーチが代表監督に就任すべき2つの理由
日本代表のワールドカップの戦いは、日本だけでなく世界中にセンセーショナルを与えた。ベルギー戦での肉薄具合を見れば、日本のサッカーがどこまで世界に通用しているのかがよくわかる。戦前の評価は良くなかったが、欧州のトップリーグで活躍する選手を中心に、高い連動性・俊敏性を兼ね備えたサッカーで世界を驚かせた。アジアでも唯一のベスト16ということもあり、アジアのサッカー先進国であることを改めて見せつけた。
しかし、安心はしていられない。2019年初頭にはアジアカップが行われ、翌年には東京五輪、2022年のカタールでのワールドカップへと戦いは続く。
そして同じアジアのライバルも決して前回のブラジル大会のように不甲斐ない成績ではない(アジア勢で1勝もできない非常事態だった)。最大のライバル韓国は、予選リーグで2敗したものの最終戦で優勝候補筆頭のドイツを奈落の底に突き落とし、オーストラリアは優勝したフランスに1-2と肉薄した。大会前、FIFAランクがアジア最上位だったイランはスペイン、ポルトガルに善戦し、モロッコに勝利して1勝をもぎ取った。ラマダン(断食)の時期が重なりロシアとの開幕戦を0-5で落としたサウジアラビアも、モハメド・サラー率いるエジプトに勝利した。
何よりも思いかえせば、イラン以外はワールドカップ予選は苦しんだ。韓国は最終節で出場を決め、オーストラリアもプレーオフで決めている。アジアの予選は、移動距離が長く決して楽な試合は1つもない。
さて、そうなると次の代表監督を誰に据えるのかは重要なポイントである。厳しいアジアの予選を勝ち抜くこと、ワールドカップで好成績を残すこと、似たようで非なるこの2つのミッションを遂行できる組織を作り上げるのは至難の業だ。しかし、私たちは期待している、そのような監督が現れることを。
条件①母国監督であること
’02年の日韓ワールドカップのトルシエ監督以降、日本代表監督はほとんどが外国籍の監督だった。ジーコ、オシム、ザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチ、途中岡田監督を挟んだが、オシムの急病に伴う代役だったので、あくまで外国人監督を主軸に選考しているのが分かる。
しかし、過去のワールドカップで3回の決勝トーナメント進出を果たした監督のうち、2回が日本人監督なのである(’10年:岡田監督、’18年:西野監督)。トルシエ監督も好成績を残していたが、このときはシドニー五輪の監督も任されており、尚且つ’97年のワールドユース(現U-20W杯)で準優勝を果たしたメンバーが中心の黄金世代(中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一、高原直泰など)で構成され、非常にメンバー的にも恵まれていた。
確かに日本のサッカーの現状を考えると、世界のトップレベルにはまだ差があり、ヨーロッパや南米で成績を残してきた監督に新しい血を投入してもらうというのも理解できる。だがここ数年外国人監督でやり続けても、日本人監督の方が好成績を残している。そして何よりも、ワールドカップで外国人監督で優勝したチームはないのだ。
ハリルホジッチ監督がコミュニケーションの問題で最終的に解雇されたように、どうしても日本人監督の方がコミュニケーションを図りやすい。できるだけ日本人監督で選考することを推奨する。
条件②4年ごとの持越し
日本人監督で票が上がっているのが、西野監督、森保一監督(現東京五輪代表チーム監督)、手倉森監督(元’18年W杯代表チームコーチ)あたりが現実的な筋である。以前代表監督を務めた岡田監督(FC今治のオーナー業で手が離せない)や五輪代表を務めた監督もいるが、現況で代表監督に引っ張るのは難しい(北京五輪の反町監督、ロンドン五輪の関塚監督)。西野監督は任期満了により、代表監督の続投を拒否している。彼の監督としての実績を考えるともう十分だし、技術委員会について日本サッカーの発展に尽力するものいいと思う。
そうなると、森保監督と手倉森監督の二択になる。世間的には森保監督に追い風だが、ここは手倉森監督の方がいい。
もし森保監督が代表監督に就任するならば、東京五輪の監督と兼任することになるが、正直これは過多だ。五輪代表チームは代表チーム以上に集合期間が短く(国際Aマッチでクラブチームが招集を容認するできるような制度が五輪代表の試合にはなく、国内外のクラブが選手の五輪代表召集を拒否でき、メンバーが安定しない)、さらに選手の成長具合が顕著に表れるため、メンバーの入れ替わりも激しい。さらに今回は通常にも増して、10代の選手にも注目が集まっている(バルサ行きが噂される久保建英やガンバで結果を残す中村敬斗あたりが筆頭)。これら多くの選手からピックアップし、チームを作るのはこれまた至難の業だ。
確かにサンフレッチェでのリーグ制覇の実績と3バックを用いた革新的な戦術は目を引くが、クラブチームと代表チームの指導法は異なり、過去にも「クラブで成功しても、代表ではあんまりだった」という監督は世界的に見ても少なくない。ここに代表チームの負荷をかけるのは、いくら何でも厳しい。
一方手倉森監督は、ハリルホジッチ時代から代表コーチに就任しており、代表選手からの信頼も厚い。ハリルホジッチと選手の不仲が噂されているときに、仲裁役に入っていたのが彼だということからも、信頼の厚さは伺える。また彼は’16年のリオ五輪の代表監督も務めており、アジア予選のトーナメントもイラン、イラク、韓国などのライバル相手に勝負強さを見せ、見事優勝し自力でリオ五輪の出場権も獲得しており実績もある。
クラブでの実績は’12年のベガルタ仙台の躍進に留まるところもあるが、前述の通りクラブの成績=代表の成績とは限らない。
そして何より、ユース世代や下の世代の監督の指導経験やコーチ経験のある監督は、代表監督に就任しても、好成績を残すケースが多い。今回は早期敗退したが、ドイツの監督のレーヴは’06年のドイツW杯で、クリンスマン監督のコーチに就任し、その後代表監督を引き継いで長期政権を築いた。また、今大会イングランドをベスト4に導いたサウスゲイト監督は、もともとユースの監督で若手を抜擢したメンバー選考で好成績を残した。近年、成長著しいアイスランドも好成績を残した’16年のEUROから代表監督が交代しているが、当時のコーチに今大会のW杯はバトンタッチしていた。
森保監督は五輪監督を務めているのでいいのではという意見もあるが、彼の場合は現在進行形で五輪代表監督であり、余裕は少ない。’02年のトルシエも五輪代表との兼任をしていたが、彼の場合はどちらも担当することが前提であり、尚且つA代表が予選免除されていたため、じっくり強化できる時間があった。今回の五輪の開催国は東京とあり、国内の期待も高い。ここは森保監督には五輪に専念してもらうのが賢明だろう。
長期政権のためには引継ぎが重要
監督の移籍市場が今夏も沸騰している。アーセナルで長期政権を任されていたベンゲル、レアル・マドリードでCL3連覇という金字塔を成し遂げたジダン、チリで南米選手権を制覇しアルゼンチン代表を今大会率いていたサンパオリなど、優秀な外国人監督は余っている。今大会と今までの日本サッカーの功績を考えれば、日本での監督業は魅力的なオファーに映るだろう。
さらに昨シーズンからJリーグがDAZNと契約し、巨額のスポンサー支援を受けたJクラブに優秀な選手が流れ込み始めている状況を見ても、日本サッカーはこれまでにない追い風が吹き始めている。単なる黄金世代の出現に留まらず、サッカー文化の底上げ、個の成長につながっている。
だからこそ、ここは日本人監督でいいのではないか。たとえ手倉森監督でなくとも、森保監督がいるし(カタールW杯の後に代表監督に就任するのもあり)、Jリーグにもガンバの長谷川健太監督、鹿島を率いてCWC準優勝に導いた石井監督、川崎・名古屋で魅力的なサッカーを展開している風間八宏監督など、優秀な日本人監督は多い。それぞれ癖のある監督だが、日本サッカーのために注力できる監督ばかりだ。日本のサッカーは世界に恥ずべきものではない昨今、手倉森監督に陣頭指揮を任せ、ここから日本サッカーの伝統をつくるべきなのではないか?
#日本代表 #監督 #JFA #手倉森